鉄筋コンクリートの劣化
鉄筋コンクリート造は置かれた環境によって耐久性に差が生じる。日本列島は北海道から沖縄まで南北に長く、寒冷地から亜熱帯気候までを包含している。また、海岸近くに多くの構造物が建設されており、海洋環境の影響を考慮する必要がある。コンクリート造の劣化は鉄筋腐食(中性化、塩害)とコンクリート自体の劣化(アルカリ骨材反応、凍害)に大別される。
全ての劣化に水が絡んでおり、鉄筋腐食とアルカリ骨材反応による劣化は化学反応で あり、劣化速度はアレニウス反応速度式(10℃の温度上昇で反応速度は約2倍となる)に従う。鉄筋コンクリートの劣化要因は、水、酸素、飛来塩分、二酸化炭素、大気汚染物質(SOX、NOX)、融氷剤等があげられる。劣化要因物質のコンクリート中への浸透・拡散速度は、運 動エネルギーであり、温度が高くなると速くなる。
さらに、コンクリートのひび割れは避けがたく、ひび割れ部では劣化要因の浸入を著しく促進する。日本建築学会の許容収縮ひび割れの指針1)では、漏水抵抗性は0.15mm、劣化抵抗性(耐久性)では0.3mmとされている。日本コンクリート工学協会(JCI)のひび割れ調査指針2)には、アルカリ骨材反応や塩分などが原因となるひび割れが示されている。 ひび割れ部を含めて、コンクリート中に水さえ入れなければ、100年程度の耐久性を確保できると考える。
図1に中性化、塩害、アルカリ骨材反応、凍害による鉄筋コンクリート造の劣化機構を示し、図2にManning(IABSE、1990)3)、4)が示す鉄筋コンクリート造の劣化速度を示す。
保護塗膜の効果
保護塗膜への期待
表1)にコンクリート造の劣化とそれに対応した保護塗膜への期待性能を示す。
アクリルゴム系保護塗膜の耐用年数
促進試験での評価(200年相当)
表2に「アクリルゴム系保護塗膜(1mm 厚、2mm 厚の2水準)+仕上塗料」の複合塗膜をメタルウエザー促進暴露試験で 5,000時間まで試験した結果を示す。メタルハライドランプを用いる試験機で、キセノンウエザーメータの数倍から数十倍といわれ、25時間が約1年に相当するとしている。サンシャインウエザーメータの約10倍の促進倍率である。
運転条件は6時間照射(63℃、79% RH)⇔ 2時間結露(30℃、98% RH、結露前に10秒間水噴射)で運転した。
アクリルゴム系保護塗膜を2mm厚さとすると、5000時間(200年相当)後も2.2mmの単純ゼロスパンテンション性能(1mm厚の性能0.8mmの約3倍)を保持しており、超長寿命化には標準膜厚より厚くして対応する手法も有効である。遮塩性は200年相当の促進試験で、1.51×10 -2 mg/cm2・日と初期の約1/4に低下し、遮塩性の回復は必要である。
写真1に示すように、ひび割れは仕上塗料のみで、保護塗膜には認められなかった。これらの結果と実績より、30年から50年を区切りにした、塗り替えサイクルを組み立てていく必要がある。
写真2にメタルウエザー促進暴露試験機器の内部と処理後の塗膜サンプル写真(5000時間)を示す。
アクリルゴム系保護塗膜の実構造物での耐久性の確認
建物外壁から採取した塗膜のひび割れ追従性
図36)に実際の構造物から塗膜を剥ぎ取り、ひび割れ追従性を測定した結果をプロットした。初期値を4~5mmの追従性とすると、32年後も40 ~50%の性能を維持している。 実測値はないが、プロットの傾きから50年経過後も、1mm 以上の単純ひび割れ追従性は有していると思われる。最大限、50年毎のメンテナンスサイクルが可能と思われる。
なお、印藤文夫7)は「マンション修繕・管理の実際」鹿島出版会(2006.11)で、"JIS A 6021の規格によるアクリルゴム系化粧防水塗料の銘柄にも十数種類のものがあるが、メン テンナンスも考慮に入れて長期間の効果を期待するには、アクリルゴム系樹脂固形分が 50%を超え、かつ、可塑剤を含まないもので、使用実績も15年を超えるものから選定する"と記載している。
本州四国連絡橋(瀬戸大橋):コンクリートケーソン上端部に施工した17年経過塗膜の性能
写真3に17年経過後のケーソン上端部の塗膜状況と試験塗膜採取状況を示す。 表3に17年経過までの塗膜物性を示す。ひび割れ追従性は、17年後も 3.2 mm まで追従できる単純ゼロスパンテンションと1~2mmまでの耐疲労性を有していた。
まとめ
- ①鉄筋コンクリート造の劣化は水を伴った化学反応である。
- ②コンクリート中に水さえ入れなければ相当年数の耐久性を維持できる。
- ③保護塗膜の役割は劣化環境の緩和である。
- ④保護塗膜で最も重要な性能は、繰り返し疲労を含めたひび割れ追従性である。
- ⑤保護塗膜の耐用年数は、ひび割れ追従性の保持力で判断することが適切と考える。
- ⑥30年後の機能維持は実物件から採取した塗膜の測定値から、ある程度確認できた。しかし、汚れ等の外観の維持は30年以下である。
- ⑦今後は、促進試験と実データを基に30~50年レベルでの維持管理の手法を見出すことが必要と考える。
最後に、図4にひび割れ追従性(単純ゼロスパンテンション)の実データと促進試験(メタルハライド)結果を、200年までプロットした。この図の確度を増せば、有機系保護塗膜でも超長期の信頼性が得られるものと思う。
〈関連文献〉
1)日本建築学会:鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説,2006.2
2)日本コンクリート工学協会:コンクリートのひび割れ調査,補修・補強指針─ 2009 ─
3)G. P. mallet 著:望月秀次,上田隆雄,宮川豊章共訳,社団法人プレストレスコンクリート技術協会,PC 技 術基準研究員会監修:コンクリート橋のリハビリテーション,7.3.2劣化メカニズム Manning(1990),p.213, 技報堂出版,1997
4)Manning D, G(. 1990). G. Somervile(ed.). Design life of concrete highway structures ─ the North American scene. British Group pf IABSE Colloquium, Cambridg, July, The design life of atructures. Blackie(an im- print of Chapman and Hall), Glasgow and London, 1992, p.144 ─ 153
5)谷川伸:外壁化粧防水材のガス透過性と躯体保護機能,防水ジャーナル,p.75 ─ 80,1989
6)谷川伸:アクリルゴムの DNA が支える 60 年対応外壁塗膜防水工法,月刊 PROOF,p.31 ─ 34,2004.7
7)印藤文夫著「マンション修繕・管理の実際」鹿島出版会(2006.11) p.91 ─ 92